開発日誌第2回  難易度

今回お話しするテーマは、「ゲームの難易度」です。
一般的なゲームでは、これはシステムから切り離して考える事が出来る「味付け」的な問題です。かなりのレベルまで、作者側が自由に設定する事が出来ます。ゲームの製作工程上、それほど難しい要素ではありません。しかし、たんていくんでは相当やっかいな問題になってしまうのです。
なお、ゲーム界で習慣的に使われる「難易度」というのは、意味の取りづらい言葉だと思います。例えば、「難易度が高い」と言うと、慣例上は難しい事を示しているようですが、よく考えてみると、これは「とても難しい」のか「とても易しい」のかよく解りません。ここでは、スポーツ界でよく使われる「難度」という言葉を採りたいと思います。

難度が高い…難しい

難度が低い…易しい

これで説明がすっきりすると思います。



たんていくんvol.1「北山歩誘拐事件」の公開以降、たくさんのメールを皆さんから頂きました。
その中には、「ゲームの難度が低過ぎるのではないか」という意見がいくつかありました。また、偶然もしくはそれに近い形で(例えば、当てもなくマップ上をブラブラ徘徊している時等)重要な容疑者に行き当たってしまう事があるのを疑問視する声もありました。
難度の調整は、どこに合わせようと万人を納得させる事は出来ません。しかし、推理ゲームの場合は少々難し過ぎる位が望ましいとも言えるでしょうから、これは次回作以降、もう一度考えてみる必要があるかもしれません。

「北山歩誘拐事件」での難度設定は、「シリーズ第1弾なのだから、全てのプレイヤーにとって初めて接するゲームである。私達も信念を曲げる事は出来ないので、システムはあくまで厳しくする。その分、アンフェアにならないよう、シナリオは甘くする」としました。独創的かつ一切のアシスト機能のない捜査スタイルは崩さない。反面、犯人に「無駄な抵抗」をさせたり、作者が「無意味なトラップ(論理性のないフラグ立て等)」を設置したりは絶対にしないという事です。
たんていくんは、残す所・捨てる所(言い換えれば、重視する所・無視する所)の選択基準が一般の推理ゲームや推理小説と大きく違うのです。何をもってプレイヤーを楽しませるかという、そもそもの目的が違うと言ってもいいと思います。ゲームとプレイヤーとの関わり方についても、従来のゲームとは全く違った考え方を私達は持っていますので、ここで改めて述べておきたいと思います。

FAQで博士(誰なんだ?)も論じているように、たんていくんには難事件は登場しません。奇妙な事件や、不可解に見える事件は起こるかもしれません。しかし、それがすなわち「難事件」となる事はありません。本格ミステリ(小説)においても、実は同じなのです。読者から見て「解くのが難しい」要因は、大きく分けると「解くために必須となるデータが徐々に(物語の進展と共に)しか得られない」「同じくデータが不完全な形(いろいろな意味に解釈出来、一つに絞り込めないような形)でしか得られない」「(犯人ではなく)作者が、読者の推理をさまざまな手段で妨害する」等が挙げられます。(もちろん、このどれにも当てはまらないミステリもありますし、私達は推理小説を悪く言いたいのでもありません。どうか誤解のないようにお願いします)

ですから、たんていくんの中で起きる事件が「簡単な事件なのか、はたまた歯応えのある事件なのか」は、単純にプレイヤーの能力で決まる訳です。現実の事件捜査と同じです。推理小説は、少しずつデータ(言い換えれば真相究明のためのヒント)を小出しにする事で、作中の探偵役の行動を追体験して行きます。探偵が苦労している様子を描けば、読者は「おおっ!これは難事件だ。面白そうだな」と感じる訳です。
ところが、たんていくんではこの手法が使えないのです。原則的に作中の主人公はプレイヤーの分身となります。主人公が知った事は、同時にプレイヤーにも必ず知らされる事になります。また、主人公の能力は、プレイヤーの腕前を正確に反映した物となります。ゲームとしての構造的な制約はありますが、それ以外の面ではプレイヤーは何をしようと、どう考えようと自由です。主人公が「よし、次はどこそこへ行ってみよう」等の言動で、プレイヤーをリードする事はあり得ません。

前置きが長くなりましたが、では、たんていくんの難度を高め、より挑戦しがいのある物にするにはどうしたらいいでしょうか。私達がこれまで考えたのは、主に次のような物です。

・作中の会話を階層化する
会話の中で数々のフラグを立て、それによって新しい選択肢を登場させるという、お馴染みの手法です。捜査の様子をリアルに感じさせる事は出来ますが、結局はコマンドの総当たりによって解けてしまいます。既に有力な仮説を立てているプレイヤーにとっては、面倒なだけで意義があるとは思えません。多くのAVG・RPGではこのシステムを採り入れていますが、主となる目的は前述のようにフラグ立てによって障壁を設け、それを克服する事で「先に進む事を許可する」という物です。たんていくんでは、プレイヤーは最初から自由な行動を許可されていますから、このシステムとは相性が良くないと言えます。

・台詞を聞く以外の手段で捜査を行わせる
これは不可能ではありませんし、また意義もあると思いますので、将来的には是非導入したいと思います。ただ、製作に要する労力があまりに大きくなってしまいます。それがどうしたと言われるかもしれませんが、私たちは今後少しずつマップを広げたいと考えている事もあり、当面はこの手法は棚上げにしたいと思っています。従来の推理ゲームなら、「話を聞く」以外にも「見る・調べる」等の行動コマンドがあります。これらを(論理的な意味を十分に持たせた上で)組み合わせれば、単なる総当たりとは一線を画した捜査が可能になると思います。スタッフを増強する等、クリアしなくてはならない問題が多いので、次回作ですぐにという訳には行きませんが、近い将来実現したいと思います。

・犯人側を動かす
前作では、探偵側(プレイヤー)が一方的に捜査を行うシステムでした。これを犯人側も「連続殺人」等の形で動かしてはどうかという案です。小説や一般の推理ゲームでは当たり前の手法です。物語性を高める効果もあります。しかし、たんていくんのシステムにこれをそのまま導入すると、いくつか大きな弊害が生じます。
これを、前作同様の基本システムを阻害しないように採り入れる方法はないかと考えた物が、現在開発中の新フラグシステム「てばたくん」です。本来の目的は「自由度を保ったまま、作中で小説のように物語を展開させる」事なのですが、上手く使えば難度の調整手段とする事も出来るかもしれません。

・マップ規模を広げる
町を広げ、住民の人数を増やします。実に単純な案ですが、「推理せずに、適当に動き回ってみよう」という気持ちを失わせる効果は確実にあると思います。技術上の弊害も特に見当たりません。今後のたんていくんが進むべき方向の一つだと思います。唯一の問題は開発にかかる労力です。前記のように、私達のスタッフ体制が整いさえすれば実現する可能性があります。


先日行ったアンケート調査の結果、北山歩誘拐事件を「簡単過ぎる」と評した方は全体の約1割でした。それらの皆さんのためにも、次回作以降の難度は、何らかの方法で少し高めに設定したいと思っています。
私達は基本路線として、重要な手掛かりをどこかに「意地悪に隠す」というポピュラーな手法は採りたくないと思っています。謎解き面に関しては、従来の推理ゲームや推理小説のようなスタイルに近づけるのなら、難度を上げるのは簡単です。しかし、それではたんていくんの存在意義がなくなります。あくまで「正しく推理すれば難なく解ける」ようにしたいという考えに変わりはありません。ですから、一般の推理ゲームに比べ、「頭を使い一旦容疑者を絞る所まで行ければ、後は比較的楽に解けてしまう」のは、たんていくんにとって決して欠点ではないと思います。

私達独自の価値観(たんていくんプロジェクトの理念と言ってもいいです)として、「仮説を立て、容疑者を絞る段階で、もう既に勝負はついている」「一通りの事件が起こった後、関係者を一室に集め、推理した真相を披露するのは、探偵(プレイヤー)にとって敗北である」と思います。ですから、「終盤で探偵が真相を語る」部分以降にも価値を見出そうとする一般の推理ゲームや推理小説と、この時点までで推理活動はとっくに終了していると考えるたんていくんとでは、成り立ち方がまるで異なるのです。(ただし、これはどちらの考え方が正しいという問題ではありません。普通の推理ゲームにも、小説にも、そしてたんていくんにもそれぞれの良さがあると思います)前述の1割の皆さんは、従来のゲームを念頭に置いて「もっと難度を上げろ。そんな事はすぐに出来るだろう」と思っておられるでしょうが、たんていくんではそう簡単に解決出来ないという特性を解って頂きたいと思います。もちろん、今後もさまざまな手法で難しさ・面白さを少しずつ高めて行きたいと思います。どうか長い目で見て下さい。(笑)
ほな。

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